2009年10月29日 (木)

粘膜蜥蜴。

 飴村行氏の「粘膜蜥蜴」(角川ホラー文庫)を読みました。
 戦時中の日本を舞台にしたエログロ怪奇ホラー小説。今回エロは少なめw
 「粘膜人間」はリアルで不気味な河童が登場しましたが、今回は「ヘルビノ」の呼ばれるトカゲの外見をした亜人種が登場します。
 人間並みの知能を持ち、比較的穏やかな種族ですが、独特の掟にしたがって熱帯で村落を作って生活しています。
 一部は人間にとらえられ、使用人として生きているものもいる。
 主人公、雪麻呂の使用人、「富蔵」もその一人。

 とにかくこの小説、先の展開が全然読めないw
 第1章では大病院の息子、雪麻呂がその絶大な権力を笠に広大な自宅や学校でやりたい放題のことをやっている描写が続くのですが、第二章では一転して、雪麻呂の友達の兄で、新人将校の美樹男が熱帯ナムールで体験した地獄のような行軍過程が描写される。
 ゲリラと怪奇生物、そしてヘルビノが登場する、血みどろで驚きに満ちた人類未体験世界w
 
 細かい一つ一つのエピソードも妙にリアルで時代設定に奥行きがあり、登場人物たちも雪麻呂をはじめとして、残虐で自己中心的かと思えば誠実で理性的な面も持っていたりして個性と深みがあります。
 文章はとても読みやすく、映画か漫画を見ているように、鮮やかに脳内で映像が構築されていきます。
 面白くてページをめくる手が止まらないのです。

 奇妙で奇天烈な展開が続くと思いきや、本当に思いもよらぬ意外な形で話がどんどんつながってきて、実は大変精密なプロットに基づいて作られた作品であると、読み終わってから思いました。 
 ただそのつながり方は常識はずれで予測不能。
 最後の最後まで未知の世界が明らかになっていく驚愕を楽しめる。 
 まさに、( ゚д゚)こういう顔になってしまったw 

 個人的には、伊藤潤二氏の漫画「うずまき」とか「地獄星レミナ」に雰囲気が似ていると思いました。
 次の作品が大変楽しみです。

2009年6月 7日 (日)

定額給付金。

 貰いました1万2千円。
 これはさっそく消費しないとね!
 オタらしくゲームと漫画を購入ww
 漫画全巻ドットコムで「天」全巻(福本伸行著)とアマゾンでDS用RPG「エルミナージュ」を購入しました。
 
 「天」は主人公の天よりも、噂の赤木しげるの活躍を読みたかったからw
 アカギの基本戦略は「チャンタ」。
 チャンタってなに?ww 
 というくらい麻雀のルールはさっぱりわからんので、ネットで調べながら読んでます。
 それでも大変面白い。
 深い計算と神がかり的な読みに基づいて手を進めつつ、とっさの状況にも抜かりなく対応し、相手のイカサマにはそれを逆手にとった対応で反撃する。
 圧倒的な存在感。。。
 こちらの思惑などすべて見透かされている感じがしてしまいますな。 

 しかもまた彼のキャラが凄いというか、既に一切迷いのない人生観を確立していて、いつ死んでも良いという心境に達している。
 生命は循環するもので、自分の肉体が死んで朽ちても、いずれまた他の生命に生まれ変わる。だから死ぬことに何の恐怖もない。
 ただ自分の意識、赤木しげるという自我は失われてしまう。
 だからこそ生きている間は、自分の本心に偽りなく生きていきたい。
 仏教の真髄にも似た彼の悟りと覚悟、それに裏打ちされた闘牌にはとても引き込まれます。
 
 まだ10巻までしか読んでいないのですが、アマゾンの書評などでアカギが最後どうなるかは知っているのです。。。
 残りを読むのが楽しみでもあり、恐ろしくもある。
 単なる麻雀漫画、ギャンブル漫画を超えた、人の心を掴み動かす作品であることは間違いないです。
 買って良かった^^。

 エルミナージュはまだ未プレイ。
 wizタイプのRPGで「世界樹の迷宮」よりも評判が良いようなので買いました。
 出張時の暇つぶし用にいいかと思いまして。
 今年の冬にはFF13も出るし、ギアーズ2の日本語版も出るし、楽しみですね。 

2009年2月 4日 (水)

最近読んだ本、漫画、見たアニメ。

・時砂の王(小川一水著。ハヤカワ文庫)
 とても面白かった。時間を遡りながら、謎の自己増殖型機械の侵略と戦う人工知性体たち。侵略者たちも時間を遡りながら太陽系を支配する歴史を作ろうとする。
 時間の流れが樹の枝に例えられ、時間を遡り歴史を変えるたびに幹から新しい枝が発生するという説明もわかりやすい。 
 主人公の人工知性体オーヴィルが人類を救うため、大勢の仲間とともに最初の時間遡行に向かう。
 その直前、上官から特秘事項が開かされる。ここが一番私は泣けたねorz。。。
 
・悪霊(ドストエフスキー)
 悪霊とは当時ロシアを覆っていたいくつかの思想のこと。
 救いがほとんどない話だけど、面白かった。
 自殺することで神の存在を否定し、新たな神になれるという思想を持つキリーロフ。
 その奇妙な思想が革命家たちによる犯罪にまんまと利用されてしまうというのが皮肉だった。キリーロフ自身は納得していたようでしたが。
 イワン・シャートフの妻、マリィは元祖ツンデレw

・地下室の手記(ドストエフスキー)
 主人公のあまりに粘着質で突飛な行動の連続に劇わらた。
 大嫌いな同級生の送別会に、無理矢理出席させてもらって、案の定孤立してポツンとしてみたり。。。
 思っていることと行動が正反対。屈辱を快楽にする超どM。
 また、前半の主人公の独白部分は素晴らしいと思う。
 現代の若者や孤独な人々の苦悩や思想、自らを慰めるための方便、哲学バカの戯言、それらのほぼすべてが語りつくされている感じw  
 さらに現代でいう物理の大統一理論、自然の法則のすべてを解き明かしたら人間はどうなるのかといったことにまで触れられているのは凄いと思う。この時代にもすでにここまで考えていた人がいるのかと思った。
 「なにしろ自意識の直接かつ当然の生産物は無気力、すなわち意識的に手をこまねいている状態なのだから」
 目から鱗が落ちる思いでした。
 
・粘膜人間(飴村行著。角川ホラー文庫)
 大変面白かった。粘膜人間とは、河童のこと。
 その河童が、非常に生々しく描かれている。知能が人間より少し低く、単純だが妙に狡猾な面も持っている。そして好色。
 その河童に、人間が殺人を依頼するところから物語が始まります。
 河童をうまくおだてて、乱暴者の弟を殺してもらおうと、兄二人がもくろむ。
 綿密な計画をたてて実行するのですが、やはり河童はいい加減で、計画どおりには行かず、その後軍人なども巻き込んで、登場人物たちの思惑と行動が絡まりあい、出会ったところでドロドロぐちゃぐちゃのスプラッタホラーが繰り広げられます。
 軍人が使う、惨殺される夢を必ず見させる「髑髏」という自白剤も強烈で、身の毛がよだつまさに悪夢のような描写だった。

・秒速5センチメートル 
 アニメ。絵は奇麗だけど、私はとてもつまらなかった。
 恋愛の雰囲気とかシチュエーションの描写は細かい。
 要は鏡のようなアニメで、見ている人自身の恋愛経験と照らし合わせて共感できる部分が多い人にとっては、懐かしさと過去の甘酸っぱさを思い出させてくれる素晴らしい作品なんじゃないかと思う。 
 普通に見ていると、主人公に魅力を全然感じない。どこがいいんだこんなスカしたやつとか思ってまうw

・ルサンチマン(花沢健吾著) 
 漫画。30歳で工場勤務のさえない主人公たくろーが、引きこもりの友人越後に誘われて、パソコンのギャルげーをプレイさせられる。
 ヘッドギアをつけ、グロープをつけ、ゲームを始めると、そこは現実と間違うほどの仮想空間「アンリアル」の世界。
 越後は現実とは似ても似つかぬ美青年「ラインハルト」様になっていて、大きな城に5人の美女と住んでいるw
 「すげえAIエンジンが開発されてよ、生きてんだよ本当に」
 たくろーは現実の女をあきらめ、貯金をはたいてパソコン一式とソフト、デバイスを買うことに。。。
 「現実を直視しろ。おれ達にはもう仮想現実しかないんだ」 
 という越後のセリフが、私にも深く深くつきささるw
 このアンリアルの世界は、ネットにつなぐとMMOとしてもプレイできて、他のプレイヤーと交流したり商売したりすることも可能です。国同士の大規模戦争もあるw
 この手の漫画や小説って、たいてい結局仮想現実が悪で、現実の友人、恋人、家族が何より大事なんだという結末に向かうことが多いと思うのですが、それらとはちょっと違う結末に進んでいくのが面白かった。 
 
 しかしこの世界って、変な規制をかけられなければ、そう遠くない未来に実現しそうな気がしますね。
 リネージュ2を、もうちょっとリアルにして、ヘッドギアやグローブでプレイできるようにして、エロ解禁すればそれでもうほとんどこの世界と変わらんじゃんw
 

2008年12月 3日 (水)

偸盗(ちゅうとう)

 芥川龍之介の「偸盗」を読みました。
 岩波文庫の「羅生門・鼻・芋粥・偸盗」に収録されていたものです。
 
 沙金という色っぽい女を中心とした盗賊団が、藤判官の屋敷に強盗に入る話です。
 しかし沙金は、太郎・次郎の侍兄弟、さらに義父である猪熊の爺とも肉体関係を持っています。
 現在は次郎を一番好いている、という雰囲気になっているのですが、太郎も爺も沙金をあきらめきれず、次郎も兄である太郎を裏切るのはしのびないが、かといって沙金の色気には勝てずといった状況です。
 
 そんな中で実行される今回の強盗には、恐るべき陰謀が隠されているのでした。。。
 
 これは素晴らしい作品でした。
 混沌とした愛憎渦巻く人間模様を描きながら、物語は意外性がありながらも綺麗にまとまっている。
 太郎が悪事に身を染めていくようになった描写が私は特に良かった。
 現代でもこんな風に簡単に人生転落していくよなと思ってしまったw
 
 屋敷襲撃後、次郎が犬に追い詰められて囲まれているところに、太郎が屋敷から盗んだ馬に乗って通りかかかる。
 私はここがこの作品のクライマックスだと個人的に思っているのですが、皆はどうなんだろ。。。
 
するとたちまちまた、彼のくちびるをついて、なつかしいことばが、あふれて来た。「弟」である。肉親の、忘れることのできない「弟」である。 
 
 このあたりの3ページは時代を超えて、いつまでも人の心を打つ文章だと思う。
 何度読んでも、すべてを包み込む深い深い愛を感じ、感動に打ちひしがれてしまうよ。
 昼休みに読んでいて、私涙出てきたよw   
 いい小説に出会えて幸せを感じました。

2008年1月 7日 (月)

老ヴォールの惑星。

 小川一水氏の「老ヴォールの惑星」を読みました。
 4つの話をおさめたSF短編集です。
 最近、仕事が全然なくって暇なので本とアニメと映画ばかり見ています^^;
 小川一水氏の作品を読むのは初めてだったのですが、大変面白かったです。
 
 表題作の「老ヴォールの惑星」。
 高圧高温で超臨界水が表面を覆う惑星に、唯一自然発生的に生まれた生命体たちの物語。
 彼らのエネルギーの獲得方法が独創的、かつ合理的で素晴らしい。
 音声の代わりに発光してお互いに通信しあうというのも良い。
 しかし遺伝子を持たず、全個体が環境から自然発生的に生まれた生命というのは無理があるんじゃないでしょうか。
 高温高圧という環境ゆえに、地球のように核酸を使った遺伝子というのは無理でしょうけど、ああいった独特なエネルギー代謝と形を持つ生命体が、自己複製機構を伴わずに大量発生するというのは考えにくいと思います。。。
 その上、同じような生命体が存在することが前提のように、全個体に光によるコミュニケーション器官も発達してくるというのはちょっと無理があります。
 そのあたりだけちょっと違和感を覚えてしまいましたが、話は大変面白かったです。
 知識と情報を伝えることが生命の本質で、彼らが本能的にそれを悟っているあたりは、「ガ」の種族に通じるものがありますね。。。

 「幸せになる箱庭」。
 全ての知識、真理、娯楽を極め、かつ不老不死という、まさに万能の存在になったあと、知的生命体はどのように行動するのか?
 それに対する一つの答えが、この作品に示されていると思います。
 全ての事象を方程式や理論で解き明かしたとしても、そこだけはいつまでも興味の対象として残るはずのものですから、私は大変納得してしまいました。
 また、昔、鈴木光司氏の「リング」シリーズを読んだときに私が感じた大きな疑問が、この作品であっさり解答されていて驚きましたw

 「漂った男」
 遠く離れた水の惑星にたった一人たどり着いた男。
 気温、水温は適度で、海水はそのまま飲めると同時に食料にもなる。
 母星の人たちと通信は可能ですが、その通信から位置を知ることはできないという設定w
 映画「キャスト・アウェイ」の宇宙版のような感じ。
 ただ、通信は可能というところがこの作品の面白いところ。。。
 もちろん救助艇は来るのですが、海だけの広大な惑星で砂づぶのような遭難者を探すのは至難の業です。
 設定も展開も面白かったです。
 

2008年1月 2日 (水)

酔歩する男。

 小林泰三氏の「酔歩する男」を読みました。
 角川ホラー文庫の「玩具修理者」に収録されています。
 「玩具修理者」はずいぶん昔に読んだのに、なぜか「酔歩する男」のほうは未読だったのです。
 
 簡単に言えば、意識だけのタイムトラベルものですが、それを可能にする大胆な発想と緻密な設定に驚かされます。
 時間が過去から未来に流れるのはなぜなのか。本当に時間に連続性はあるのか?
 時間が連続していると決めているのは、結局のところ何なのか?  
 登場人物の一人の、哲学的な妄想としか思えないアイディアが次第に説得力をおび、読み進んでいくうちに、コレひょっとして本当にできるんじゃないかと思ってしまって、鳥肌が立ちました。
 
 それと作品の中でいわれている、
 「未来が決定するのは、人が観測することによって波動関数が収縮するから」
 という、量子力学的な解釈は、何か目から鱗が落ちる思いでした。
 未来は様々な可能性が非実在の状態で漂っている波動であり、人が観測して初めて収縮して一つの現実となる。
 そしてタイムトラベルで過去に戻ったときは、この波動関数が発散してしまう。
 たとえば意識のタイムトラベルで、9月20日を体験し、波動関数が収縮したとしても、次に8月10日に戻ってしまったら、その時点で波動関数は発散してしまう。
 体験したはずの9月20日は再び不確定となるのです。
 未来に行って、株価を記憶して戻ってきても、戻った時点でまた未来は不確定になってしまい、株価がそのとおりになるのは確率の一つになってしまうのです。
 従来のタイムトラベルものでは、このあたりの説明が弱くていまいちすっきりしなかったんですね。。。

 私は小林泰三氏の作品では、何といっても「Α・Ω」(アルファ・オメガ)が大変好きで何度も読み返しています。
プラズマ生命体という概念は、生命の本質とは何かということ、そして進化の究極の姿の一つを見せてくれました。生命には、水と酸素とアミノ酸と、適度な温度が必要で……、などという私の非常に狭い視野を360度広げてくれたのです。
 「酔歩する男」は、自分が存在している世界の根本的な部分が崩れていってしまうような感覚、発狂しそうな不安感を与えてくれました。

2007年10月 7日 (日)

夏と花火と私の死体

 乙一氏のデビュー作にして、ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞作。
 乙一氏の小説は、私ほとんど全部読んでいると思いますが、なぜかデビュー作だけ未読でした。
 電車で出張に行く前に、本屋で文庫本を見つけたので購入。。。

 冒頭で殺されてしまう少女の「わたし」。それを必死で隠そうとする幼い兄妹。
 妹、ことあるごとに焦りすぎw でもそれが大変かわいらしいので良い^^;
 対してお兄ちゃんはかなり冷静で、子供ながら頼りがいのある良い男を感じさせてくれるw
 死体が見つかりそうになるときの緊張感がすごいです。
 電車に乗っている3時間ちょっとで一気に読み終わった。

 この人は、私本当に天才だと思う。日本の小説界の奇跡です。
 人の内面の葛藤、風景の描写など、表現力が半端じゃなく素晴らしい。
 文章がしつこいとか、舞城王太郎のように独特であるとか、そういうことでは全然ないんです。
 シンプルで洗練されている文章です。でも心に深く響いてくる。
 その上、サスペンス的なストーリーの展開もうまいんだから言うことなしです。
 時代が変わっても、良い小説として残っていく作品が多いと思う。
 
 個人的には、「ZOO」の中に収録されている「陽だまりの詩」と「SEVEN ROOMS」が圧巻だと思う。
 読んだあと数日間、小説から想像した映像が何度も頭の中で繰り返されてしまった。
 私の弟は、「神の言葉」が最高じゃんw と言っておりました。 
 

2007年5月 6日 (日)

GW中に読んだ本。

・「ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ」 深水黎一郎 著

 読者が犯人、という究極の不可能トリックに挑んだという謳い文句のミステリ。
 今だに密室とか不可能トリックとか書いてあると、つい手にとってしまうんです。。。
 私がよくミステリを読むようになったきっかけは、大学生の時に読んだ、ジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」だったもので。。。それ以後しばらく不可能トリック物にはまってしまったんです。
 ちなみに「三つの棺」の不可能度はもの凄いです。歴代ミステリの中でも間違いなくナンバー1でしょうw
 翻訳が下手すぎて読みにくいのがすごくもったいないですね。
 もう一度翻訳しなおして、改訂版を出版すれば、21世紀に一大カーブームが来てもおかしくない、と思う。。

 で、このウルチモトルッコですが、究極のトリックというのは風呂敷を広げすぎじゃないですかね。。。
 あまりの見事さに衝撃を受けたということはなく、また、成立しえないトリックに詐欺的憤りを感じたわけでもなく、なんだそりゃw と笑ってしまうレベル。
 でもね、私この作者の文章は好きです。過剰な装飾はないですが、読みやすく、状況がわかりやすい文章なんです。
 心理学実験の説明も必要十分にまとめられていると思いますし、作中作の「香坂誠一の覚書」という私小説っぽい部分もかなり良いできだと思います。
 今後はトリックにあまりこだわらず、作品を書いたら良いのにと思いました。
 

2007年4月24日 (火)

忌憶

 小林泰三著。「忌憶」(角川ホラー文庫)を読みました。
 記憶にまつわる3つの中編が収められています。残念ながら最初の「奇憶」は以前詳伝社文庫から出版されたものの再録でしたが、「器憶」、「キ憶」(キは土に危。漢字出ず)は書き下ろし。
 特に「キ憶」は衝撃を受けた。。。
 最近小説や映画でよく目にする「前向性健忘」という、新しいことを覚えられない病気にかかった男が主人公です。主人公は自分の身に起こったことや、忘れてはならないことをノートに記録し、それを常に携え、参照しながら生活しています。
 他の作者の小説や映画では、この病気と人間ドラマや恋愛を絡めた話が多かったように思うのですが、小林氏がこのテーマを扱うとやはり全然違うw 
 主人公にはこの病気とは別に重大な秘密があり、何としてもそれを隠し通さなければならないのです。しかしその秘密は病気になって以後の出来事なので、すぐにその秘密自体を忘れてしまう。
 従ってノートに秘密が書いてあるわけですが、もし他人にノートを見られると秘密が暴露されてしまうわけです。絶対に他人にノートを見せるわけにはいかない。
 でもその「ノートを他人に見せてはいけない」ということも忘れちゃうw
 だからそういった警告がまずノートの最初に書いてあります。
 
 持ち歩くノートは1冊ですが、過去に使ったノートは家に何十冊も保存してあります。新しいノートにするたびに、最初の警告や重要な出来事を書き写しているのです。
 何冊も経るうちに、内容は追加されていきますが同時に整理されて無駄が省かれ、洗練されていくわけです。
 病気になってから以後の記憶や考察は全てこのノートに記録されている。
 紙と文字という原始的な道具ですが、このノートはまさに脳の役割を部分的に果たしているのです。
 そしてノートの方こそ自分の本質なのではないかと主人公は考え出しますw
 
 大変面白かった。小林氏やっぱりすごいです!

2007年4月 6日 (金)

嘘は止まらない。

 戸梶圭太著。
 相変わらず漫画のようにすらすら読めました。
 ンゴラス王国という架空のアフリカ小国の駐日大使を抱き込み、詐欺ファンドで一儲けしようとする話です。
 戸梶氏の小説でいつも関心するのは、先が全然読めないということですw
 今回も主人公の日本人二人が、詐欺ファンドの絵を描いたところまで読んで、ああ、この先はこの詐欺をいかにして現実のものにするか、騙すか騙されるかの緊張感ある展開になるのかなと、ついつい常識的なことを思ってしまいました。
 でもやはり、読んでいくと展開は相当違うw
 先に進むほど、伏線が収束するのでなく、逆に混沌状態になってくる感じなんです。

 途中で、通代という車椅子に乗った女性が登場するんです。
 頭が切れ、詐欺の計画について不備を指摘したりするんですね。
 主人公たちがキャバクラでピンチに陥ったときも、的確な行動を起こし、それを救います。
 通代というブレインの参加で、詐欺計画が一気に現実的になってきた、と私は思いました。
 ところがこの人は、そういう読者の思惑とは全然違う方向に持っていかれてしまうww
 
 しかし不思議とラストは爽快感がありました。
 三谷幸喜や伊丹十三の映画のように、伏線が綺麗にまとまっていく展開に少々飽きた人には楽しめると思います。
 数多く登場する激安人間たちもいい味出してます^^。